お金をかけずに魅力あるサイトに変えるテクニックを伝授する連載8回目。前回はサイトをスムーズに運営するためのルールづくりについてお話しました。今回は、ウェブマスターとの協力体制づくりについてです。
デザイナーとの会話では、「今まで会った嫌なクライアント」がよく出てくる。依頼内容を無視した度重なる修正や、こちらの都合を全く無視したタイトなスケジュール等々。どれだけ無理難題を言われたかを、面白おかしく話してくれる。決まって「あんたの仕事だけやってるわけじゃないと言ってやりたい」と言って終わるのだ。
しかしそんな嫌なクライアントにも悪意があるわけでなく、彼らはデザイナーの仕事を知らずに、自分の立場や都合で主張してくるだけなのだ。無用な摩擦を避けるためにも、デザイナー側は「いいデザイン」を追求するだけでなく、相手がどういう目的やタイミングで仕事を依頼しているのか、クライアントの視点を常に意識しておく必要がある。
クライアントの業種は様々だが、普段交渉する相手は企業側のウェブマスターであることが多い。その業務を見てみよう。
ウェブマスターの4業務
「ウェブサイトの責任者」であるウェブマスターは、いわば一店を任される「店長」である。店舗経営と照らし合わせてみると、ウェブマスターの業務は大きく4つに分けられる。
1.仕入れ:コンテンツ
ウェブサイトに掲載するコンテンツの企画、素材収集や原稿作成。サイトにアクセスしたユーザのニーズを満たすコンテンツを準備する。
2.売り場作り:サイトデザイン
ユーザが使いやすいナビゲーションや、コンテンツをより魅力的に見せる画面レイアウトをデザインする。サーバ、データベースなどのシステム設計を行う。
3.接客:コミュニケーション
ウェブサイトからの問合せに対して迅速に対応する。リピーター向けの会員サービスや、個別のユーザにカスタマイズした情報を提供する。
4.鮮度管理:オペレーション
古い情報を削除して、常に新鮮な情報に保つ。ユーザにとって適切な量とタイミングでコンテンツを更新する。
自ら作業するにしろ、指示を出して他の人にやってもらうにしろ、この4つの業務の責任を負うのがウェブマスターなのである。
運営は一人の仕事ではない
企業サイトの規模が拡大する今日、前述の4業務をウェブマスターが一人で抱えるのは現実的に不可能だ。ウェブサイトの運営は、デザイン事務所や開発会社など社外の協力体制なくしては機能しない状況である。
現状では、業務の1と2を社外にまかせて、3と4をウェブマスターおよび社
内のメンバーで行うような役割分担が多く見られる。しかしこの4業務は、常
に連携した動きが求められる。
連携がうまくできないと、スムーズな運営どころかサイトに問題を引き起こす原因ともなる。急いでコンテンツを作っても適切なタイミングで公開できなかったり、トップページや他のページからのリンクがなく、孤立して役に立たないまま放置されてしまうこともある。これではユーザに見てもらうことができないし、効果もあがらない。
今必要とされているのは、社内外のメンバーが一体となった安定した運営体制である。デザイナーにとって、余計なストレスが少なく能力を十分に発揮できるクライアントとの理想的な関係とはどのような形だろうか。
コラボレーションのコツ
もっとも大切なのはスケジュールの共有だ。メンバーの誰がなにをしているのか、サイトはいつどうなっていなければならないのか常に把握することである。スケジュールを関係するメンバーにオープンにすることはコミュニケーション促進にもつながる。
他メンバーの動きを意識しながら作業を進めることができるようになれば、なにより仕事がスムーズになるし、現状の課題も見えてくる。お互いの作業手順や役割分担を見直して無駄な時間を削るこで、スピーディーなコンテンツ更新を可能にする。大幅な手戻りをなくし、突発的な事態にも素早く対処できる。そうすれば、より充実したコンテンツを制作するためにアイデアを練る余裕もでる。
よりよいウェブサイトを運営するためには、格好いいコンテンツを作る技術だけでなく、仕事を進める基盤となるワークフローにも深い理解が必要だ。クライアントの仕事内容を知ることで、お互いに負荷の少ないスケジュール調整や的確なデザイン提案ができるようになる。
今後、ウェブマスターとデザイナーの関係はさらに密接度を増してくる。デザインのプロとして、自分の仕事を「ウェブマスターの視点」から一度眺めてみよう。相手の置かれた状況を把握することで、あなたのアドバイスは生きたものになり、デザイナーとして十分に能力を発揮できるコラボレーションが可能になるはずだ。